三学期になって、名前が変わる事になった。
今まで百合子は離婚しても、秋本の姓を名乗っていた。離婚する時に、旧姓に戻すか、そのままの姓を持続するか、選べるのだった。
しかし二月に正式な再婚が決まった。戸籍の筆頭者だった百合子が再婚すれば、子供達の籍は中ぶらりんになってしまう。どこかの籍に入らなければならないが、百合子の再婚相手は、子供を自分の籍に入れるつもりがなかった。
子供達は必然的に、祖父母の養女になると決まった。それは祖父母の望むところではなかったが、他に方法がない。
秋本万里亜から、青木万里亜に。
秋本千絵から、青木千絵に。
名前に未練などない。どう変わろうと、何も感じない。しかし学校でそれを告知するのは、喜ばしくなかった。言い掛かりをつけられるきっかけとなってしまう、そうわかっていたからだ。
この場所で権力を持つためには、暴力に訴えるしかない。破壊行為が何より嫌いな万里亜には、無理だった。ならば目立たないようにするしかないのだが、転校生というだけでそれも初めから不利だった。
結局、逃げ回るしか他に身を護る術はなかった。
理不尽な暴力を避ける為、万里亜はだれより早く帰宅した。
不良達は、体育の坂井先生の事だけは、恐れていた。空手の有段者であると噂されており、不良が五人束になっても、適わないくらい立派な体格だった。 万里亜は出来るだけ坂井先生の側にいるよう心掛け、細心の注意を払って学校生活をやり過ごしていた。それでも暴力に曝される事は、一度や二度ではなかった。
名前が変わった事は、どうしても恵里子に告げなければならなかった。恵里子からの手紙が、いつまでも旧姓のまま届いていたら、祖父母はいい気持ちがしないだろう。
恵里子に、というより透に知られたくないと思うのは、万里亜の身勝手だ。万里亜が大事に思う人間関係を優先して、その義理もないのに扶養してくれる祖父母を、おろそかには出来なかった。
もしもその手紙を書いた事で、恵里子から音信不通になってしまったら、それが答えだと思って、本は郵送で返そうと決めた。そう決心出来るまでには、勇気を要した。